巨大数研究 Wiki
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冪乗(べきじょう)または累乗(るいじょう)とは、\(a^b\) と表記される演算であり、これは直観的には「\(a\)自身の乗算を \(b\) 回繰り返す」ことを意味する。たとえば、 \(3^4 = 3 \times 3 \times 3 \times 3 = 81\) である。\(a^b\) は「aのb乗」「aをb乗する」などと言い、aを底または基数、bを冪数、冪指数、あるいは指数と言う。

巨大数論では、3番目のハイパー演算子であり、冪乗を繰り返すとテトレーションとなる。

急増加関数では、 \(f_2(n)\) が冪乗の増加速度に相当する。

定義[]

負でない整数 \(b\) に対して、冪乗は以下の定義となる。

\[a^b := \prod_{i = 1}^{b} a\]

そして \(b\) が負の整数である場合には負でない整数指数 \(-b\) に対する定義を用いて

\[a^b := \frac{1}{a^{-b}}\]

と定義が拡張される。\(b\) が有理数 \(\frac{n}{m}\) (\(m\) は正整数、\(n\) は整数)である場合には整数指数 \(n\) に対する冪乗の定義を用いて、

\[a^b := a^n \textrm{の} m \textrm{乗根}\]

(正負で複数ある場合は正の方)として定義される。なお\(m\) 乗根の存在は実数の連続性(特に中間値の定理)から従う。組 \((m,n)\) は \(b\) に対して一意ではないが、それを用いて導入した \(a^b\) はwell-definedである(つまり \((m,n)\) の選び方に依存しない)ことが整数指数に対する冪乗の指数法則により保証される。

\(b\) が実数である場合には、有理数指数 \(b_n\) に対する冪乗の定義を用いて

\[a^b := \lim_{n \to \infty} a^{b_n}\]

と定義が拡張される。ただし \((b_n)_{n \in \mathbb{N}} = (b_0,b_1,b_2, \ldots)\) は \(b\) に収束する有理数列である。\((b_n)_{n \in \mathbb{N}}\) は \(b\) に対して一意ではないが、それを用いて導入した \(a^b\) はwell-definedである(つまり \((b_n)_{n \in \mathbb{N}}\) の選び方に依存しない)ことが有理数指数に対する冪乗の指数法則と連続性により保証される。

また同じく \(b\) が実数である場合(そしてより一般に距離に寄る収束が意味を持つような有理数の拡張、例えば\(p\)進数、複素数、及びそれらを係数に持つ行列である場合)に対しては、 \(a^b\) は \(e^{b \ln a}\) とも定義される。ここで、 \(e^x\) は指数関数、 \(\ln\) は自然対数で、それらは部分的にはこのように定義される。

\[e^x := 1 + x + \frac{x^2}{2!} + \frac{x^3}{3!} + \frac{x^4}{4!} + \cdots\] \[\ln x := \int_1^x \frac{dt}{t}\] (\(n!\) は \(n\) の階乗)

これらの級数は \(x\) 次第で収束しないので、収束域外では別個に値を定めるかまたは未定義とする必要がある。特に\(e^x\)の級数は\(p\)進数全体では収束せず、\(\ln x\)は複素数全体に定義を自然に拡張できないことが知られている。そのため\(a^b\)を\(p\)進数で考える時は\((a,b)\)に制約を付け、複素数で考える時は多価関数として扱うことが多い。

\(e^x\)の計算に \(x^i\) が含まれるが、iは負でない整数であるため、負でない整数を先に定義してから一般の実数に定義を拡張することにより、自己循環的な定義にはならない。

一方で距離による収束が意味を持たない範囲でも冪乗を拡張することがあり、例えば順序数に対しても冪乗が超限再帰で定義される。

冪乗の性質[]

下に複素数の冪乗の恒等式を示す。

\(a^0 = 1\)(\(a\)は\(0\)でない任意の複素数)
\(a^1 = a\)(\(a\)は任意の複素数)
\(1^b = 1\)(\(b\)は任意の複素数)
\(0^b = 0\)(\(b\)は\(0\)でない任意の複素数)

\(0^0\) は本来定義ができないが、例えば環論や多項式やテイラー展開を扱う文脈では\(1\)として扱うと都合が良いためその流儀が採用される。

下に幾つか冪乗を扱う上で便利な性質を示す。ただし\(a,b,c\)は両辺が一価に意味を持つ範囲を動くものとし、\(0^0\)を\(1\)とする流儀を採用する。

\[a^{-b} = \frac{1}{a^b}\]
\[a^{b + c} = a^b \cdot a^c\]
\[a^{b - c} = \frac{a^b}{a^c}\]
\[a^{b \cdot c} = \left(a^b\right)^c\]

これらは変数が自然数の範囲のみを動く際は数学的帰納法を用いて証明され、整数、有理数、実数と定義域を広げた場合はそれぞれ定義域を広げる前の結果を用いて証明される。指数関数を用いた定式化と他の定式化が一致することを示した上でなら(それを示すために結局同様の議論が必要ではあるが)指数関数の性質を用いてこれらを示すことも可能である。

\(a^{1/b}\)はよく\(\sqrt[b]{a}\)と書かれ、特に \(b = 2\) のとき、よく \(\sqrt{a}\) のように書かれる。\(\sqrt{a}\) および \(- \sqrt{a}\) は\(a\)の平方根とも呼ばれる。

前のハイパー演算子である加算乗算と違い、冪乗は交換法則も結合法則も成立しない。例えば、 \(3^5 = 243 > 125 = 5^3\)、 \(3^{2^3} = 6561 > 729 = \left(3^2\right)^3\)である。

\(a^b \not= b^a\)はそれらが1か2である場合を除いて成立する。

繰り返しの冪乗は右から左に計算する。例えば、\(a^{b^{c^{d}}}=a^{\left(b^{\left(c^{d}\right)}\right)}\)、\(5^{4^{3^{2}}}=5^{4^{9}}=5^{262144}\)

^記号は計算で始めに解かれる。例えば、\(a \times b\verb|^|c=a\times(b\verb|^|c)\) .

微分積分学[]

微分積分学における二つの重要な法則に、微分と積分における 指数法則がある。

\(\frac{d}{dx}x^n = nx^{n - 1}\)(\(n\)は任意の実数)
\(\int x^n dx = \frac{1}{n + 1}x^{n + 1} + C\)(\(n\)は\(-1\)でない任意の実数、\(C\)は積分定数と呼ばれる局所定数)

他の記法[]

冪乗は他の記法ではこのように書ける。

  • 矢印表記では \(x \uparrow y\)
  • チェーン表記では \(a \rightarrow b\)または\(a \rightarrow b \rightarrow 1\)
  • BEAFでは \(\{x, y\}\)または\(x\ \{1\}\ y\)[1]
  • ハイパーE表記では E(a)b
  • プラス表記では \(a +++ b\)。
  • スター表記では \(a ** b\)。
  • PythonやRubyなどのプログラミング言語では、 a ** bである。

出典[]

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