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現在では「矢印表記」という記述が日本語圏の巨大数界隈では一般的と見ていいかと思うのですが、一部にはまだ「タワー表記」という記述が見られます。たとえば Wikipedia における「クヌースの矢印表記」のページや、個人ブログなどです。

一番ひどいのは Wikipedia の「巨大数」のページにある説明です。

クヌースの矢印表記(タワー表記)は、指数の積み重なりである指数タワーを記述するための、非常に単純な表記法である。

これは明確に違うでしょう。

冪乗のことを英語では power と言いますが、それを右上に連ねていくテトレーションを、その見た目から "power tower"、日本語だと「指数タワー」と呼ぶことはあります。しかしそのテトレーションもその右項を左上に書くと、例えば \( 3 \uparrow \uparrow 3 = {^3} 3 \) などと書けます。そしてペンテーションではもはや、トリトリなど多くの場合において指数タワーでの記述は現実的でないものになります。

確かに矢印が 1 つの時が矢印表記として一番弱い状態であり、あとはそれを数え上げて数え上げて数え上げて……とやって強くするだけではあるので、タワーを名前に含めようとするのもわからないではありませんが、それならばハイパー演算子についても「後者関数の積み重なり」と説明できることになってしまいます。しかしこの説明では +1 のみで大きくする巨大関数全てが当て嵌まってしまいますし、そもそもこれは集合論における自然数の定義である \( n+1 = n \cup \{n\} \) そのままです。基本的な考え方のみで巨大数を記述することに限界があるので、新しいものを定義しているのですから、きちんとその説明をして、誤解を招く記述は避けるべきだと考えています。

どうしてこうなったのか随分前に調べたのですが、まず初出の論文においては "arrow notation" としか記載されていません。そして日本語では数学@2ch掲示板の「雑談はここに書け!【2】」の 242 が、矢印表記を何故か tower とだけ表記しています。確認できた限りですと、これが arrow notation を tower という単語と結び付けた日本語における最初の情報です。

しかし、Knuth の論文にあるのは次のような部分だけです。

In fact, the next step uses two arrows

\( x \uparrow \uparrow n = x \uparrow (x \uparrow ( \dots \uparrow x) \dots )) \)

where we take powers n times. For example

\( 10 ↑↑ = 10^{10^{10^{10^{10^{10^{10^{10^{10^{10}}}}}}}}} \)

ちなみに tower という単語は一切出てきていません。

(ところでこの引用部分の最終式の左辺は \( 10 \uparrow \uparrow 10 \) の誤植でしょうか。前後はちゃんと読んでません)

先程の、矢印表記を tower と記述した書き込みは、数学板コテハンに対する煽りだったものですから、そのままコピペとして伝播していきます。結果として当時の数学板住民のうち少なくない人々の目に触れていたはずです。

これが次にグラハム数スレの 84 で「タワー」となります。グラハム数スレでは、グラハム数の説明のために ↑ という表記そのものはすぐ登場するのですが、名前が出てこないまま、すぐに件の煽りコピペが貼られてしまいます。なので「タワー」というのはそれをそのままカタカナにしたものでしょう。

Wikipedia (en) では "Knuth's up-arrow notation" となっていて、up- を付けるのは Google Scholar で軽く検索しても比較的少数派なのですが、それでもただ単にそのままでしかありませんから、「タワー表記」という誤解を招きかねないものとは根本的に違います。

Google Scholar で "tower notation" とダブルクォーテーションで括ってフレーズ検索してもノイズが多くて調べるのが大変ですが、Knuth's tower notation と記述している論文なら発見できました。その場所の内容は以下の通りです。

Which integers are most compressible? Again, if the rule \shorter expressions are the powers" is applied, the most compressible integers2 are of the form

\( 2 \uparrow 2 \uparrow \dots \uparrow 2 \)

which takes us to Knuth's tower notation [1].

これは矢印表記の限定的用法であり、確かに power tower の話ですね。Knuth は tower notation というものを提唱したわけではありませんが。

帰納関数だから結果として power tower の形にできるよ、という考えの上では、これが 2重帰納関数であることや、ハイパー演算子で等価な記述ができることの理解ができません。また、矢印表記で等価な記述にできるアッカーマン関数の理解にも影響しますし、そのアッカーマン関数で使われている数え上げの手法は多くの巨大関数で使われています。正しく理解しなければその後の理解が進まなくなることもあると思います。

というわけで、既に矢印表記という名前で通っている以上、タワー表記という名前を残す必要がそもそもありません。それよりも、タワー表記という名前による弊害がある、というのが知人の工学勢数名に巨大数を啓蒙してみた上で危惧していることです。

私は Wikipedian でもありますし、とりあえずこの名前でアカウントを作って後で Wikipedia の記述を変えておきます。

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